「不自由なしかく」

「私たちの「視覚」は不自由だ。一度にすべてを把握することはできないし、与えられた情報によって見え方も変わってくる。そして、絵画の「四角」にも制限があり、この四角い画面の中で表現しなくてはならない。私は、このふたつの「不自由」を合わせて絵画を作っている。

 一部しか見られないのであれば、順番に見ていけばいい。そして制限のある四角い形が埋まれば、ひとまずはひとつとなる。自分の経験がひとつの形となる。四角い形には終わりがある。その終わりに向かって力いっぱい筆を払うと、筆の勢いが衰えぬまま、まるでそのままどこまでも続いていくかのような風景が立ち上がる。不自由さとは豊かさなのかもしれないと、最近思うようになった。」

 

 

 横野の言葉にはコンセプトめいたものは有りません。どう描きたいか、その意思表明が綴られています。ストロークに絵画の本質、自らの資質を見出した横野は、そこから導き出せるモチーフをキャンバスに描き込んでいます。キャンバスの端の絵具の溜まりはスピード感と力強さを、一定方向に整えられたストロークによる色面構成は明確な抽象性を前面に押し出しています。横野の潔さは、全ての様式と試みが出尽くした感のある現在において、また現代美術のセオリーが世界中で展開されている昨今では、あまりに若く無防備のように見えてきます。しかしそのセオリーに縛られないシンプルで明確な意志と制作こそが、今の現代美術では求められているのではないでしょうか。既視感を脱し、個人の想像の枠を越える為に横野は、ストローク等の絵画の基本要素を考察しながら、自らの絵画で試みています。スピード感のあるストロークと制限された色彩、風景や静物等のシンプルな構成が、横野の絵画の見せ場・魅力となっています。私共は横野の作品に、今後の絵画の生き生きとした可能性を見ています。横野の不自由な四角が、私達の不自由な視覚を目覚めさせてくれる事を。

2018年6月(個展「不自由なしかく」GALLERY ZEROホームページより)

「TERRAIN」


 ある日小鳥を飼うことになった。

雛から育てたためとてもよく懐き、部屋にも放っていた。
障害物の多い部屋の中を、躊躇なくものすごいスピードで飛んでいる。

この時どのように世界をとらえているのだろう?


 数年前に、テレビのドキュメンタリー番組で飛行機墜落事故について特集していた。
詳しいことは忘れてしまったが、地面に近づきすぎてしまうと鳴る"TERRAIN"というアラート音がとても恐ろしかった。
自分の身体が地面(日常)から離れ、上空にあること。

そして墜落していくときに見える行き止まりの風景。
悲しい気持ちと同時に、感覚が刺激された。
 

 私はこういった感覚を掴みたいと思い、絵画という形式でできることを試みた。


2017年6月(個展"TERRAIN"について)

「制作のこと」



 さまざまな情報が素早く簡単に手に入る現代において、私は昔よりも物知りになったと思うが、同時に忙しくなった。一つの情報を立ち止まりじっくりと考える時間がない。
新しい情報が次々とやってきて、その忙しさについていくのに必死である。
自らの考えが形成される前に誰かの考えが入り込み、私は入手した情報をそのまま流すだけの機械のようになりつつある。
 そんな今、改めてシンプルな構造の絵画に救われる。なぜなら絵画の大きな構造は変わらず、ルール変更もなく、何百年前の作家とも数年前の自分とも、絵画の問題でコミュニケーションがとれる。
制作現場では時空を飛び越え、誰からも邪魔されずにひとつの問題についてじっくりと考えることができる。
たくさんの表現方法が生まれなお、絵画を選択するのはこのためだ。
 私は架空の風景や場面を描いているが、描いた際のブレや歪み、滲みなど、それだけでは目に止まらないものを、風景という形を借りて可視化したいと考えている。
そこで大切にしているのは、何か「絶対的」な美を提示するのではなく、「仮定」を作品の構造に組み込むことである。
なるべくシンプルに、何をしようとしているのかを明らかにした上で作品を見てもらいたい。
 わかりやすい例を挙げると、2016年制作の「effect」この作品は、6枚のキャンバスをつなぎ合わせ、キャンバスの角や切れ目から形を導き出すという、とてもシンプルな構造である。タッチの方向も一定であり、どうしても難しい場所のみタッチを変えている。
グラデーションは筆の動きをみてもらうためにつけてあり、色彩も最小限である。成り立ちがそのまま道のイメージ(像)となっているため何も隠されていない。
何も隠されていないということは、その秩序から少しでもはみ出た説明のつかない部分が見えやすくなるということであり、好きに解釈してよい余地が現れるということでもある。
 私自身、制作者であり一番の鑑賞者であるので、そのような余地を見たく制作を続けている。何か特別なことをしなくとも、自然と滲みでてくるようなものを大切にしている。


2017年3月 (ホルベインスカラシップACRYLART別冊2017 アーティストステートメントより)

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